
2023年12月20日、アルツハイマー病治療の歴史に新たな1ページが刻まれました。日本の製薬大手エーザイと米国のバイオジェンが共同開発した新薬「レカネマブ」(製品名:レケンビ)が、ついに日本国内で発売されたのです。この薬は、これまでの治療薬とは一線を画す画期的なアプローチで、多くの患者さんとそのご家族に新たな希望をもたらす可能性があります。
病気の原因に直接アプローチする、初めての治療薬
これまで使われてきたアルツハイマー病の薬は、症状を一時的に緩和するものが中心でした。しかし、「レカネマブ」は病気の根本的な原因の一つと考えられている脳内の異常なたんぱく質「アミロイドベータ」に直接作用します。
アミロイドベータは、脳内に蓄積することで神経細胞を傷つけ、認知機能の低下を引き起こすと考えられています。「レカネマブ」は、このアミロイドベータを選択的に除去することで、病気の進行そのものを抑制する効果が臨床試験で示されました。これは、アルツハイマー病の進行を遅らせることを目的とした、国内で初めて承認された治療薬です。
治療の対象となるのは?
重要な点として、「レカネマブ」はすべてのアルツハイマー病患者さんに使用できるわけではありません。治療の対象となるのは、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症と診断された、比較的早期の段階にある患者さんです。
治療を開始する前には、PET検査や脳脊髄液検査などで脳内にアミロイドベータが蓄積していることを確認する必要があります。早期に発見し、適切な段階で治療を始めることが、この薬の効果を最大限に引き出す鍵となります。
気になる年間の薬剤費は?
「レカネマブ」の薬価は、体重50kgの患者さんで年間約298万円と非常に高額です。この数字だけを見ると、治療をためらってしまう方も少なくないでしょう。
しかし、ご安心ください。この薬は公的医療保険の適用対象となっています。さらに、日本には医療費の自己負担額に上限を設ける「高額療養費制度」があります。この制度を利用することで、実際の自己負担額は所得に応じて大幅に軽減されます。例えば、70歳以上で一般的な所得(年収約156万~約370万円)の方の場合、年間の自己負担額の上限は14万4000円程度になります。
「レカネマブ」の登場は、アルツハイマー病が「進行をただ見守るだけの病気」から「進行を抑制できる病気」へと変わる可能性を示唆しています。もちろん、副作用のリスク管理など慎重な投与が求められますが、この新しい治療選択肢が、患者さんとご家族の未来を少しでも明るく照らす一筋の光となることが期待されます。
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![医学のあゆみ アルツハイマー病――研究と治療の最前線 2023年 287巻13号 12月第5土曜特集[雑誌] 医学のあゆみ アルツハイマー病――研究と治療の最前線 2023年 287巻13号 12月第5土曜特集[雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/411sRs4TdOL._SL500_.jpg)

